薪ストーブの薪(燃料)としての針葉樹と広葉樹の違い

「針葉樹と広葉樹の違い」すでに多くの考察があるので、あえて「ざっくり」と

薪として利用する時にどう違ってくるのか、実務的な結論から

 ネットのご時世だからかもしれませんが、実はこの薪ストーブに絡んだ「針葉樹・広葉樹問題」の考察は、すでにたくさん存在します。一つ紹介すると、優れた情報まとめがこちら【なぜ針葉樹はよく燃える?タールが多い?針葉樹と広葉樹の薪としての性質とその理由 - おれがキャンプ用品を買いまくってレビューするブログ】。今は消された旧愛研のページからも情報拾って頂いております、ありがとうございます!これ読めば大体用も足りますし、このほかにも、ネット上には多くの考察があります。

 しかし、これまでの多くの考察が「当たらずしも遠からず」(私も人のこと言えませんが(笑))という状態だったり、問題自体が、サイエンスとしてあまりに深くて興味深いが故にフォーカスがボケてしまい、実務ベースの知識としてわかりにくくなっているので、当サイトでは「ざっくり」、薪ストーブの実務ベースで役に立つことを第一に解説します。

 「ざっくり」とはいえ、サイエンスの範疇を外れないために一つだけ前置きすれば「針葉樹にもいろいろ、広葉樹にもいろいろ」です。でも結論をいうと、実務ベースで知っていると役に立つ針葉樹と広葉樹それぞれの「傾向」については、だいたい次のようなものになります。

 この傾向は、あくまでも「ざっくり」ですが、我が国では、暮らしの中で針葉樹で手に入りやすい樹種がスギ・ヒノキ・カラマツあたりで、広葉樹で手に入りやすい樹種がナラ(クヌギ含む落葉のドングリ)・カシ(常緑のドングリ)・ケヤキあたりなので、実務ベースでは支障ないということで!

 もちろん「例外」はあります。広葉樹でも柔らかくて軽い「キリ」なんて、話で聞く限りですが、炎に対してかなり針葉樹的な振る舞い(表面に火はつくけど、燃え進みにくい)をするようです【桐たんすを仕上げる 「桐を焼く」 - 桐箪笥屋・三代目奮闘記】。でも後述する生存戦略的に見れば、キリはかなり針葉樹に近い(すごく成長の早い)広葉樹なのです。

 逆に針葉樹でもイチイ(一位)なんて、日陰でゆっくりじっくり成長する樹で(後述する生存戦略的に)、きっと燃え方も広葉樹みたいなんだろうと思うのですが、実際に燃やした経験なんてありません、材として高級すぎて!

 薪の材質の違いによって生じる、このような燃え方の違いは、暮らしの中で薪ストーブから「どのような価値」を取り出すか?という観点からも決定的に重要なのですが(別記事で詳述します)、ともかく、この針葉樹と広葉樹のざっくりとした違いが、「薪ストーブの燃料の質」として決定的ともいえる差をもたらすことになります。

先に、針葉樹と広葉樹、そもそもその違いは何か?を「ざっくり」解説

 これらの材料としての違いがなぜ生じるのかを、本当にざっくり(学術的な厳密さは捨てて感覚的に)、でも本質論的に述べます。一言で言えば、おおもとは針葉樹と広葉樹の「生き物としての生存戦略の違い」です。それが木材の成分に現れた結果、材料としての性質も異なる、という理解でだいたい当たっている(大外れはない)と思います。

 解説しますと、進化というか地球上に生じた早い遅いで整理すると良いのですが、早い原始的な時代からの植物で戦略も原始的というか単純なのが針葉樹、遅い進んだ時代に生じた植物で戦略も高等なのが広葉樹です。

 植物の生き残りというのは、基本的には同族である植物同士で争われる「光」の奪い合い競争に勝ち抜くことと同時に、植物を食べにやってくる虫など動物という「外敵」から身を守ることを、並行して達成しなければなりません。

 針葉樹の戦略は基本的に単純です。「光」の奪い合いの部分では、他者よりもより早く空間を制圧すること、つまり早く伸びること(とりわけ上に)。 「外敵」からの防御では外敵は皆殺し的に制圧すること。

 より早く伸びるには、成長するボディとしては、じっくり作り込んでいるよりも、針葉樹特有の「仮道管」という構成要素の名前が示すように、仮でもなんでも良いから「機能」を果たす最低限のもので、さっさと構成してしまったほうが理にかなっています。そうなると、ボディそのものは、どうしても「密度が低く」(軽い)「強度が低い」(柔らかい)ものになります。

 注意したいのは、原始的な戦略だから「劣る」というわけではなく、例えば「光」はあっても、「温度」と「水」という、植物の生育に不可欠な条件が不足している状況下でも、原始的であるからこそ針葉樹は生存できるのです。例えば「寒さ」と「乾燥」に支配されるシベリアでは広葉樹は生きることはできず、「タイガ」という針葉樹による林が成立します。地理で習いましたよね?

 そんな針葉樹の「外敵」に対する戦略は単純に「皆殺し」です。そのための武器が、いわゆる「ヤニ」(侵入者を固めてしまう)だったり、殺菌的効果のある化学成分(「フィトンチッド」を含む精油として人間も利用)だったりします。これに対しては虫も殺される前に植物を殺してしまうような勢いで攻撃を仕掛けたりします(松くい虫による松枯れみたいなイメージ)。

 そんな針葉樹に対して、広葉樹(とりわけカシのような常緑樹)の戦略は、「光」の奪い合いにおいては、最初は負けていても、少ない光でじっくり成長できる力(耐陰性)を備えること。そして「外敵」に対しては、皆殺しを試みて、相互の対立を先鋭化させて相互に激烈な戦いを繰り広げるよりも、妥協して共存すること。

 その結果、広葉樹のボディはじっくり作りこまれ「密度が高く」(重い)、細胞の組織的分業化も高度であり、作るまでは時間かかる分、作られてしまえば「緻密で頑丈」(硬い)です。外敵も殺さないので虫からも極端な先鋭的な攻撃もなく、虫の侵入による患部を生じながらも、そのまましぶとく共存します。

 ですので、例えば日本の平地や亜熱帯地域のように、「温度」と「水」に恵まれた環境では、針葉樹は最初は(あるいは、親世代は)空間を制圧しますが、いずれは(子世代は)広葉樹に負けます。そして広葉樹が一度勝てば、噴火や人為などで環境そのものが破壊されない限り「勝者」の座を譲ることはありません。

 このような生存戦略の違いによって、自ずと「ボディの構成成分」が異なる、針葉樹と広葉樹という「特性の違う木材」が生じます。軽くて柔らかいヤニというか樹脂分の多い針葉樹と、重くて硬くて樹脂分はさほど多くない広葉樹(ただし虫が入り込んだり病気を抱えた「幹部」は樹脂が多くなります。カブトムシ&クワガタを捕まえるポイントですね)。

 この特性の違いを「材料」として利用する側の人間からみると、耐久性や強度を直接的にはさほど要求されない「家の構造材料」や「梱包材料」その他、手に触れたりしないものには針葉樹、道具の柄だとか家具だとか生活空間に存在して手に直接触れる(傷つきやすいけど傷ついたら困る)ものは広葉樹、というような使い分けになります。「ざっくり」言えばですが(笑)

「ボディの構成成分の違い」から理解できる、燃やした時の特性の違い

 このように針葉樹と広葉樹で異なる構成成分は、燃やした時にも、燃え方の違いとなって当然現れます。まず針葉樹がパーッと一気に炎を上げて燃えやすいのは、密度の問題とか諸要因あるでしょうがが、やはり樹脂成分の多さが第一に関係すると思います。

 もっとも、サイエンスとしての木材の成分分析では「主成分」に対して「副成分ないし抽出成分(より正確には「水または中性有機溶媒抽出成分」、実務的にはエタノールとベンゼン(1:2v/v)の混合溶媒で抽出される)」と言われる部分で、国産材では針葉樹と広葉樹で量的に大差ないともいわれます【<総説>木材抽出成分と健康問題(1),佐藤惺,木材研究・資料 (1987), 23: 14-15】

 ただ、詳細データはすみませんネットの上に見つかりませんでしたが、自分の経験上でも、針葉樹(スギ・ヒノキなど)の方が、広葉樹(ナラ・カシなど。上述資料では「ブナ」が近い)よりも、抽出成分(樹脂・ヤニ)が多いのは確かだと考えられます。

 さらに国産材と比べたら輸入材は抽出成分が多いとのことで、その燃焼への影響は、輸入材だけで構成されることの多い建築廃材や、パレット材などを燃やした場合によく観察されるのではと思います。すっごい炎で盛大に燃えますよね?

 あとはリグニンという成分の量の差(針葉樹の方が多い傾向)も効いてくるのでは?と思うのですが、ざっくり言って、広葉樹に比べた針葉樹の燃焼に関する特性として、燃えるのに酸素をより多く必要とする成分が多い、しかもその成分は、燃えたらより高温を発生させて燃焼するということが挙げられます。

 化学式上では単に水素や酸素が少なく炭素が多い、ということになるのですが……「ざっくり」感覚としてでも、パーッと一気に炎を上げて燃える素材は、酸素を短時間で多く必要として、燃焼によって発生する温度も高いって、ご想像頂けると思います。

薪ストーブは燃料としての針葉樹は苦手?

煙を処理するための複雑な構造を持つ薪ストーブが嫌いな燃料

 これも「ざっくり」結論から行きますが『よくある普通の薪ストーブ』は、煙を処理するための複雑な構造を持ちます【薪ストーブで後悔する理由(その2)】。そんなストーブは、どうしても、次のようなシチュエーションが苦手になる傾向があります。

 薪ストーブメーカーも無為無策ではないので、もちろん、それぞれのシチュエーションに対して「対策」は個別に工夫して施されているわけです。しかし上記のようなシチュエーションが原理的に「苦手」なことは確かです。

 そして、お分かりかと思いますが、この「苦手」なシチュエーションが、先ほど述べた「針葉樹の燃焼時の特性」と、見事なまでに一致します。

 もちろん「使い方」「燃やし方」の上手、下手によりますが、針葉樹を使うほどに…

 これらのリスクを「原理的に」増加させてしまうことが、お分かりいただけますでしょうか?

 要するに、針葉樹は、複雑精緻な燃焼空気コントロール系をもつ『よくある普通の薪ストーブ』に用いる燃料の質としては基本的に「嫌い」、「合わない」、「質が悪い燃料」ということに、どうしてもならざるを得ないわけです。

針葉樹も利用できるようにするために、薪ストーブ本体側での対策

 本質的に合わない燃料である針葉樹ですが、実務ベースでは当然使えた方が有利なので、具体的には、これまた超「ざっくり」ですが、『よくある普通の薪ストーブ本体』では次のような対策が講じられます。

 これらの対策は、それぞれ「蓄熱効果」だとか「炎の美しさ」といった、薪ストーブにとって有用な付加価値も生じますが、もともと排煙処理のために宿命的に生じてきた「実務ベースにおける弱点」である重さと複雑さは、さらに上積みされることになります。

 こちらの記事【薪ストーブで後悔する理由(その2)】で述べましたが、「煙垂れ流しのペラペラ激安ストーブ」が、日常の暮らしの実務ベースでは、極めて使いやすいということから見れば、煙を処理するうえに、針葉樹も燃やせるようにさらなるハイスペック化を試みた結果、皮肉なことに「使いにくさ」についても、さらに屋上階を重ねることにつながってしまうわけです。

針葉樹を燃やせる(苦手としない)薪ストーブは、どうすれば「理想的に」実現できるか?

 この答えは実は極めて簡単です。問題の根本は、排煙処理系(空気導入系を含む)の複雑精緻さに起因しているわけですから、そこを可能な限り簡単でラフでも機能を発揮できる仕組みとして、パーッと燃える炎による局所的で急激な熱膨張を「最初から」織り込み済みにしてしまえばいいのです。

 具体的には、急激で局所的な熱膨張、熱収縮の繰り返しを想定し、それに耐えられる本体の設計(部品形状及び単純な組み合わせ方法)を工夫し、それを具現化できる製造法により組み立ててしまえば解決できるわけです。

 ですので根本的なポイントは、ひたすらに「排煙処理システム」の考え方にまで戻ります。そこさえ「ラフで頑丈なシステム」で実現してしまえば、耐久性も通気性も有利になり、パーッと一気に燃えて大量に酸素を要求する針葉樹でも「問題なく」「苦手とすることなく」、つまり「気兼ねなく」使えるということになります。

「針葉樹も燃やせる薪ストーブ」、弊社としての考え方

本当に気兼ねなく暮らしていただける「竹でも燃やせる薪ストーブ」をあなたに

 ここで述べてきた「針葉樹問題」は、関連記事【薪ストーブで後悔する理由(その1)】で、すでに申し上げたような絶対的な「燃費」つまり薪の消費量、使用量が少なくて済むことと同じくらい、「燃やすものを選ばない」のは、薪ストーブの暮らしにおけるランニングコストを実際に下げるための「一丁目一番地」です。

 「注意すれば燃やせる」とか、「使い方によっては燃やせる」ではなく、特に何も考えなくても煙や本体寿命に問題をきたすことなく、気兼ねなく使えるものでなければならないと考えます。

 そのため実用的な暖房器具として樹脂の多さ、一気に強い炎を上げて燃えることで言えば、パレット材のような外材どころか、木材の比ではない「竹」でさえも、問題なく燃やせる、それを主燃料としても暮らせる頑丈な薪ストーブを厳選してご提供しております。

 そんな排煙処理が単純で頑丈な仕組みによる薪ストーブは、総じて単純で軽量でもあるため、立ち上がりも早く、短時間で煙の処理が働き始め、薪の消費量も少なくて使い易いです【ちなみに弊社として提供している薪ストーブはこんなの、単純で軽量であるため、もともと使い易い薪ストーブ「MD70K」を、さらに改良した「MD70kiss」というオリジナル版です】

 それで巷のペラペラ激安薪ストーブのように短寿命だったり、煙がモウモウであれば全く話になりませんが、煙の問題も耐久性(寿命)の問題もクリアーした実績ある薪ストーブとなっておりますので、どうぞ安心してお使い頂ければと思います。

【おまけ】サイエンスが好きな、あるいは興味をお持ちのあなたへ

 ここまで長い長い記事を最後までお読みくださいまして、本当にありがとうございました。この記事では、最初に申しあげましたように、あくまでも実務ベースの視点から「ざっくり」と針葉樹と広葉樹の違いについて解説してきました。

 けれども学問体系として、本来この問題は非常に奥が深く、面白い課題ですので、さらに学びたい方や、ここに書いてあることを「ホントかな」と検証したい方も、いらっしゃるかもしれません(笑)

 ですので、以下、Web上で参考となる(内容について、愛研大屋が知り得る限り大きな間違いがなく、読みやすい考える)情報を示しておきます。もっと学びたい方は、このあたりもお読み頂ければと。

 なお、この記事は、サイエンスといいつつ、あくまでも私、愛研大屋の「ざっくり」感覚で書かれております。この記事のために改めて勉強したというより、薪ストーブ屋になるずっと以前より関わってきたテーマだったりします。

 よって本記事は「もとから考え、検証を重ねていたこと」を書いただけですが、当たらずしも遠からずだろうとは思っております。そのため最後に、本記事に関係する著者、大屋の属性だけ明らかにしておきます。

 三重大学工学部資源科学科(現・分子素材工学科)で材料化学を学んだのち、北海道大学大学院地球環境科学研究科にて北大植物園及び北大忍路臨海実験施設の協力を得て針葉樹と広葉樹の葉を実際に分解させて生じた化学成分変化の差を修士論文にまとめ(残念ながら木材ではなく葉っぱでしたが……当時は農学部の講義にも潜り込ませて頂きました(笑))、環境調査会社に勤務しつつ独学で森林インストラクターの資格取得、環境カウンセラー(市民部門)

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